日本監査研究学会

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会長挨拶

会長 堀江正之(日本大学商学部)

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 昨今、監査の世界は目まぐるしく動いています。KAMが我が国にも導入され、今後はその実務が蓄積されてゆくことになります。監査役等の会計士監査への関与の度合いは確実に高まることでしょう。
  海外に目を向ければ、英国の建設大手カリリオン社の経営破綻とその監査のあり方に対する懸念が引き金となって、長年燻っていた大手監査事務所の寡占問題や、監査業務と非監査業務の同時提供問題をはじめとして、年次報告書に含まれる財務諸表以外の情報に対する保証業務提供の是非や、適正か不適正かのいわゆるpass or fail式の監査意見表明から段階的意見表明方式の模索等々、検討課題がいろんなところに飛び火しています。
  内部監査も例外ではありません。内部統制の監査にとどまらず、ERMやガバナンスプロセスを対象とした監査は、もはや避けて通ることができません。経営者の内部監査への期待の高まりにつれて、企業価値向上のための監査に向けた取り組みも求められています。その一方で、不正でも起ころうものなら、「内部監査はどこを見ていた」といったことにもなりかねません。少ない陣容のもとで、アクセルとブレーキのバランスをいかにとるかが問われています。
  世間を賑わしている課題があると、どうしてもそれに飛び付きたくなります。社会的な関心の高い課題の解決に道筋を付けたり、理論的な根拠を与えることこそ研究者や学会が果たすべき任務と考えがちです。新しい課題に取り組めば、論文も多産できそうです。しかし、一見無関係に思える研究対象に関する成果や、あるいは多様な研究アプローチによる成果が、新しい課題の解決にとっての思わぬヒントとなることもあるのではないでしょうか。
  学会での交流の魅力は、このようにいろいろなモノの見方や考え方を知り、刺激を受け、自身の研究のヒントとすることにあると思います。学会の運営に当たっては、多様性をもった交わりをお互いに尊重できる雰囲気をもっとも大切にしたいと考えています。
 さて、監査論を専攻する若手の研究者は減少の一途を辿っています。会員増強を図りたくても、監査論を志す若手が増えないのではどうしようもありません。その対策というわけではありませんが、財務会計を専攻される研究者やIRの専門家にも広く参加してもらいたいものです。会計不正に関する研究では、監査の関係者だけでは、不正の発見といった枠に囚われた分析に陥ってしまいがちです。不正を行うのは監査人ではなく、監査の対象組織です。ですから、そこに焦点を当てた研究も必要となってきます。規制機関や投資家等のステークホルダーの視点も必要でしょう。financial reporting ecosystemを前提とした共同研究こそが必要となってきているのです。
 今後の監査論研究の一層の発展のためには、隣接する学問領域である経営学や法律学はもちろんのこと、社会学や心理学等の知見も必要になるでしょう。AI技術の専門家の力はもはや必須かもしれません。課題別研究部会に会員外の専門家がメンバーとして参加できる仕組みがあってもよいかもしれません。将来的には、このような複合的視点に基づく会員増強や、他学会との積極的な交流も必要となってくるように思えてなりません。狭い領域の専門家集団という殻に閉じ籠っていては、学会の発展は見込めないのではないでしょうか。
 そのことに関連して、会計や監査教育の問題もあります。大学という教育の現場にいますと、実務家の先生方が想像されている以上に、学生の会計離れの現実を目にします。簿記という技術的なハードルを越えなければならない面倒臭さ、現実離れした会計教育への不信感、そしてAIの進展によっていずれ会計という仕事そのものがなくなるのではといった不安などが入り混じって、若者の会計離れは着実に浸透しているように見えます。
 本学会は「研究学会」という名称ですから、教育の問題は仕事ではないという反論があるかもしれません。しかし、会計や監査に携わるものとして、じわりじわりと進みつつある地盤沈下(崩壊?)から目を背けるわけにはゆきません。「ゆでガエル」になってからでは遅いのです。賛助会員や特別会員とも連携して、会計・監査教育の問題を一度取り上げてみる必要がありそうです。
 今後もさまざまな課題が突きつけられてくることでしょう。会員の先生方のお力を借りながら、少しずつでも前へと進めてゆきたいと考えています。

2019年8月

 
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