日本監査研究学会

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過去の会長挨拶
2014年9月

会長 高田敏文(東北大学会計大学院)

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 2012年9月の会長就任以来2年間が経過しました。この1年間を振り返り、就任時に所信として表明させていただきました3つの柱を中心として所感を申し述べたいと存じます。

 第一の柱の監査研究の向上についてであります。この一年間本学会の全国大会は東北大学、東日本部会は北海道大学、西日本部会は監査法人トーマツ大阪事務所に開催の労をお取りいただきました。定例ではありましたが、全国大会につきまして特筆すべきことがございました。それはその参加者数がこれまでの最高を記録したことであります。皆様ご承知のとおり、全国大会はこれまで関東と関西の大都市において交互に開催することを原則として参りました。これは交通・宿泊の便などを配慮したこと、つまり地方で開催しますと参加者が少なくなることを懸念したことによるものでした。私はかねてから一人の会長の任期中3度開催できる全国大会のうち一度は地方で実施するべきであることを主張しておりまして、就任後最初に私の所属大学であります東北大学で主催させていただくことをお認めいただいた次第です。地方では参加者が少なくなることが懸念されておりましたが、東北大学の大会の参加者数はこれまでの最高を記録しました。学会が成功するかどうかは、開催地ではなく、プログラムの内容によるものであることがこのことから明白になったと思います。
 昨年の全国大会では、その初日に若手研究者のための特別セッションを実施しました。アメリカ会計学会等で数々の学術賞を受賞されているハワイ大学のJian Zhou先生をコーディネーターにお願いし、会員の皆さんの英語による研究報告と質疑、Zhou先生のコメントをいただく方式で5時間にわたるワークショップを開催しました。こちらも好評であり、50名の会員が参加されました。開催校によっては、こうしたワークショップを大会・部会と並行して実施することが困難でありますので、私の任期中は会長の責任の下でワークショップを開催したいと考えております。よろしくお願い申し上げます。
 ワークショップで報告された会員の皆さんは、ぜひ国際学会で報告していただきたいと存じます。特に若い会員の皆さん、大学院生の準会員の皆さんは、積極的に国際学会で報告されることを期待しています。そのトレーニングのためにも、本学会のワークショップを活用していただきたいと思います。次回のワークショップは、2014年度内に海外で開催する方針で準備を進めています。準備が整いましたら、ご案内申し上げます。

 第二の柱は監査制度、監査実践と監査研究との連携強化についてであります。本学会は研究活動がそのコアとなることは論を俟ちません。しかし、監査研究はその対象として監査実践、そして監査実践を支える監査制度、会計プロフェッションが存在します。私たちは日本監査研究学会会員としてアカデミアの立場に立ちつつ、監査実践、監査制度、会計プロフェッションの健全な発展に寄与することもまたその責務であります。一昨年来、わが国の会計プロフェッションである公認会計士と税理士との間の職域にかかるコンフリクトが発生しました。コンフリクトの具体的な内容につきましては、ここでは触れませんが、私は一方的、また事実に反する主張が一方の会計プロフェッションから公にされた事態を重く受け止め、理事会に諮り「重大な懸念」を理事会声明として表明することにいたしました。そのことにつきましては、すでに昨年の全国大会の会員総会の場で皆様にお知らせしたとおりです。会計実務、監査実務は国際化が進んでいます。事実でないことを日本国内向けとはいえ、全国紙に公にすれば、そのことは瞬く間に全世界に広まります。職域に関して、2つの会計プロフェッションが議論し、問題解決に向けて努力することに対して、私たちは客観的な立場から支援する用意がありますが、為にする、事実に反する主張に対しては厳しく批判することもまたアカデミアに属する者の使命であると考えます。
 私たちアカデミアに属する者は、研究活動と称して特定の立場や利害に立った主張をすることについては厳に慎まなければなりません。ときおり監査実践に対して、この種の「研究報告」あるいは「研究論文」を目にします。私は本学会会長の職にある間は、個別のこうした「研究」に対する論評は控えますが、研究が依拠することは事実以外にはあってはならないことを申し上げたいと存じます。ご自身の価値観や利害に基づいた「研究」は、ご自身だけでなく、監査研究全体を貶めるものであると私は判断しています。そのような点で、監査実務や監査制度、会計プロフェッションに私たちが接するときには慎重でなければなりませんが、今回の職域にかかるコンフリクトに対しては、日本監査研究学会理事会として客観的な立場から意見を表明させていただきました。

 第三の柱は、監査教育、会計教育です。財務諸表虚偽記載にかかる事件が明らかになり、監査人がそのことを発見できなかった場合、社会の多くの人々から会計プロフェッションは厳しい批判にさらされます。オリンパス事件はまだ新しい事件の一つです。こうした事件が発生しますと、当局からも「いったい監査人は何をしていたのか、どうしてこうした不正を発見できなかったのか」が問われます。その結果として、不正発見あるいは不正摘発と財務諸表監査との関係が問われることになります。私たちの学会におきましても、このことは何度か統一論題として取り上げ、多くの研究成果が公にされました。
 さて、問題はこれをどのように教育するのかです。財務諸表の監査の基本的な機能は、財務諸表が正しく作成され、表示されていることを第三者の立場から監査人が証明することにあります。つまり、正しいことを正しいと証明することが監査の基本機能です。もちろん、正しさの中には重要な不正がないことも含まれますが、不正摘発は財務諸表監査の基本機能ではありません。
 財務諸表が正しく作成されているならば、その正しさを証明することなど、まったく無駄ではないかと疑問を呈する人々が世の中の多数派であると思って間違いありません。だからこそ大学や大学院で会計を学ぶ学生に対して、「正しさを証明すること」の重要性、その社会的な役割を教育しなければならないのです。
 個人であれ、会社組織であれ、人々は特定の立場、利害を持っています。他人をだましたり、ミスリードしたりする意図がなくても、特定の立場や利害に立つ人々の主張は、それ以外の人々から自動的に信用されることはありません。特に金銭に絡む関係の中ではそのことが該当します。
 そのような利害関係を調整する手段として、客観的な第三者であるだれかが「正しいことを正しい」と証明したことに監査の起源があります。公認会計士による監査証明のような明示的な監査報告書の形式はとりませんが、財務諸表の正しさを客観的な保証している会計制度があります。それは税務申告書です。税務申告書は税務署つまり国税庁がその正しさを保証していると考えられます。監査とは何か、なぜ社会で必要とされているのかについて、監査教育を通して正しく情報発信していくこともまた私たち日本監査研究学会に属する会員の使命であると考えます。

 これから任期3年目の最終年に入ります。引き続き、皆様のご協力のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

2014年9月1日

 
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