日本監査研究学会

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会長挨拶

会長 松本祥尚(関西大学)

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 この8月で会長の任期も2年が過ぎ、残すところ1年となりました。新型コロナウイルス感染症が2023年5月8日より5類感染症に移行されたことから、ようやく学会を対面で開催できる環境が整い、7月には第46回西日本部会をハイブリッドで、また第45回東日本部会を対面で開催して頂くことができました。ハイブリッドで開催頂いた日本公認会計士協会近畿会と対面での開催をお引き受け頂いた釧路公立大学の先生方ならびに会場での対応をして頂いた事務担当の皆さんや学生さんたちには、この場を借りて御礼を申し上げます。また全国大会は、9月に専修大学において対面で開催していただける予定です。
 8月上旬に開催されたアメリカ会計学会も対面開催を原則とする方法に復帰し、コロナ禍の成果の1つであるオンラインによるWebinarを随時開催することで学会活動の効果を上げようとしています。学会が会員の研究発表と当該発表に関する意見交換のための場に留まることなく、研究者同士の研究上のアイデアや知見の交換、実務家の先生方との問題意識の共有、さらには参加者同士の様々な情報交換といった学会ならではの成果が得られるよう、引き続き対面による学会開催に拘り続けたいと考えています。
 一方、監査を取り巻く環境において、今年、制度的に大きな変更が行なわれました。特に2024年4月1日から施行される予定の四半期レビューを含む四半期開示制度の廃止法案は、適時かつ適切な情報開示によって投資者の保護を図るという金融商品取引法の趣旨に逆行しかねないものです。1999年に東証マザーズ市場が開設された際に新興企業向けに四半期の業績開示とそれら開示情報に対する意見表明業務が取引所による自主的な情報開示の一環として開始されました。それが四半期法定開示へと移行し現在まで続いてきたのは、信頼できる情報を適時に開示することで誤った情報に投資者が誤導され不測の損害を被らないように、という偏に投資者の保護を志向したものでした。したがって、今回の制度変更によって投資者の保護という資本市場の根幹が揺らがないことを学会として検証し続ける必要があります。
 もう一つの重要な制度変更は、2024年4月1日以降開始する事業年度より適用される内部統制報告書の監査を含む内部統制報告制度に関する基準の改訂です。この基準改訂では、内部統制報告書の監査という情報監査としての位置付けを維持しつつ、経営者による財務報告に係る内部統制の評価とその結果である内部統制報告書の監査をリスク・アプローチに基づいて実質化することにあります。2008年に導入された内部統制報告制度に対して、基準上の例示だったはずの数値基準が形式主義的に内部統制評価に適用され、本来、適用されるべきトップダウン型のリスク・アプローチがなおざりにされているという批判がありました。このような意見を受け、経営者独自の財務報告上のリスクの識別と評価を反映した内部統制報告書の作成と、それらプロセスを経て作成された内部統制報告書の適正性に関するリスク・アプローチ監査の徹底が求められました。このため今回の基準改訂趣旨が、適用後の内部統制報告制度にどのように具体的に活かされるのか、に我々は注目していく必要があります。
 さらに今後の制度化の対象として挙げられるのは、国際的に議論が盛り上がる非財務情報、殊にサステナビリティ情報を含む記述情報の開示とそれら情報に対する保証のあり方です。監査論のテキストでは必ず出てくる決り文句として「情報あるところ監査あり」という言い回しがあります。また「自己監査は監査にあらず」という文言もあります。つまり情報作成者が提供する情報は作成者の恣意性による相対的な性格を持つため、当該情報がどの程度信頼し依拠できるものであるかを想定利用者に対して、情報作成者とは別の当事者が明らかにすることの必要性は、公共財である法定開示情報に対してはヨリ一層重視されねばなりません。
 本学会が理論的・実務的側面から検証すべき、或いは検討すべき課題は、今後もますます増えていくと考えられます。当該課題に対して表面的な議論に留まることなく、ヨリ深みのある実質的な議論をするためには、研究者と実務家の先生方との情報共有は不可欠であり、全ての学会員の協働作業が必要であることは言うまでもありません。
 今後とも会員の先生方からのご協力を頂戴しつつ会長としての任務に真摯に取り組んでいく所存ですので、引き続きのご支援とご指導を心よりお願い申し上げる次第です。会員の先生方におかれましては、本学会活動に対するご要望やご意見を、学会役員、事務局、事務連絡所までお寄せくださいますと幸いです。

(2023年8月記)

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